幻想人迷劇 その弐拾壱
妖怪の山。
ここに最後に来たのはにとりさんを見つけたあの日だったっけ。
確か、天狗がいっぱいいるところ迄しか登ってない、あの山を、今日は一気に頂上まで登る。
にとりさんの代わりに、いや、これは只の私怨かも知れない。
でも、同じ山の住人をズタボロにする現人神なんて、神とは言えない。言いたくない。
その罪を、償わせてやる。例え自分が倒れてでも。
「…よし、行こう。」
準備は整えた。大丈夫。八卦路も、懐中時計も、人形も、ナイフも、増量魔法を使って増やしている。
箒に跨り、俺は森を出た。
「妖怪の山は…あっちだったな。」
心を落ち着ける為に、少しゆっくり、でも高い所を飛んでいく。
…ついた。山の入口だ。ここから入らないとちょっと面倒な事になるから、箒で低空飛行をする。
「あやや、貴方はいつぞやの」
どこか落ち込んだ雰囲気を漂わせる、文さんに会った。
「文さん、また飛び回っていたんですか?」
「いえ、心配事があって落ち着いてられないのですよ。」
「心配事?」
「なんでも、にとりが酷くボロボロにされていたと、哨戒の天狗から聞きまして。しかも何故かそのにとりが居なくなっているというので、大丈夫かと心配で心配で…」
「大丈夫です。」
「え?…と、言いますと?」
「にとりさんは永遠亭に俺が連れていきました。もう怪我も完全に治って、安静にしている頃だと思います。」
「紅蓮さんが!?」
「にとりさんをやったのは俺じゃないですが…犯人はわかっています。にとりさんから聞きました。」
「だ、誰がやったんですか?」
「…現人神。東風谷早苗です。」
「早苗さんが…ですか」
「ええ。そうです。もう、俺が何をしに来たかわかります…ね?」
「はい。空を飛んでいっても大丈夫なように今すぐ言ってきますので、少々お待ちください。」
そう言って文さんはフルスピードで飛んで行った。
「OKです。私からは身分上手出しは出来ないので…お願いします」
「任せてください!」
よし、行こう。
神社の鳥居をくぐり抜け、本殿のようなものの前に降りる。
「この敵意は…只の参拝客じゃないね。」
「そうだね。早苗、行っておいで?」
「わかりました。神奈子様、諏訪子様、行って参ります。」
しばらく待っていると、一人の緑髪の少女が出てきた。
ターゲットである、現人神・東風谷早苗だ。
「その表情を見る限りでは…要件を言う必要は無さそうですね。」
「ええ、わかっていますよ。」
「では、始めましょう。」
「かかって来なさい、只の人間よ!格の違いを思い知らせてやる!」
幻符「殺人ドール」
弾幕の相殺が始まる。まだ、互いに小手調べと言ったところだ。
「そのスペルは咲夜さんの…」
早苗さんが驚きを見せる。その瞬間、こちらのナイフの弾幕が押し始めた。
「くっ…!しまった…!」
早苗さんのスペルに勝った。
「ふっ…なるほど、手加減の出来る相手ではないようですね!」
早苗さんが弾幕をよけながらスペルを詠唱する。
奇跡「客星の明るすぎる夜」
突如、眩しい光の弾幕が上から降ってくる。
これは、マズイ。
光の洪水に俺は流された。
「ぐあっ…!?」
一つ一つの弾幕が合わさって流れているようで、喰らうとかなり痛い。
現人神、流石の実力か。
魔廃「ディープエコロジカルボム」
爆弾を投下し、弾幕をかき消す。
「次は魔理沙さんの!」
早苗さんの声が高揚している。
開海「モーゼの奇跡」
早苗さんが消えた。
確かこのスペルは…
「上っ!」
箒を上で剣のように振り、上からの奇襲を弾く。
「どうやら私の事もよく知っているようですね?」
大奇跡「八坂の神風」+奇跡「ミラクルフルーツ」
「そんなのありかよ…っ!!」
「幻想郷では常識に囚われてはいけないのです!」
大量の弾幕が襲いかかってくる。
二重スペルなんて聞いたこともなかった、という驚きもあり、とっさに判断が出来ず、そのまま全て喰らった。
「まったく。やな予感がすると思ったら、やっぱりこうなってるのね…」
夢符「夢想封印」
四つの陰陽玉が弾幕を消していく。
「っ!貴女は!博麗の巫女!」
「ええそうよ貴女が毛嫌いしてる博麗の巫女よ。」
「なぜ貴女がここにいるんですか!」
「うーん…勘?」
鋭すぎるだろ巫女の勘。
「おっと、早苗達の勝負に首を突っ込まないでくれないか?」
なんかオバs…お姉さんが出てきた。
あの姿は…八坂神奈子…?
「そうね。あまりいいことではないわね。」
「お前の相手は私がしよう。」
「上等よ。かかって来なさい」
向こうで弾幕戦が始まった。
俺も、立たなくちゃ。勝たなくちゃダメなんだ。思い知らせないと、早苗さんに…っ!
足に力が入らない。
うまく、立てない。
「おい、大丈夫か!?」
一人の少女が手を差し延べる。
「魔理沙…さん?」
「そうだ。霧雨魔理沙だぜ?お前、戦わなくちゃいけない理由があるんだろ?ここでくたばってないで、頑張れ!な?」
「…まさか、魔理沙さんに激励されるなんて思ってませんでしたよ、有難うございます。」
「ちょっとちょっと。手を出すなって言われたばかりだろう?」
今度は小さな子が出てきた。
洩矢諏訪子だ。
「私は手を出してないぜ?差し延べただけだ。」
「とにかく、これ以上何かするって言うなら私が相手になるよ?」
「…紅蓮、頑張れ。」
魔理沙さんが囁く。
「了解。さぁ、やろうぜ!」
あっちでも弾幕戦が始まった。
『頑張れ。』魔理沙さんはこう言ってくれた。
「女の子に激励されて…」
「立てねぇ男が…」
「あって、たまるか!!!」
「いいでしょう。さぁ、ここからが本番ですよ!」
秘法「九字刺し」
炎剣「フラム・ルージュ」
接近戦が始まる。
ってあれ?九字刺しって、近接だったか?
…常識に囚われてはいけないとは言ってたが、ここまでやるか。
「それが、貴方の能力ですね!やっと出してきましたか!」
炎弾「フレイム・バレット」
フラムルージュで鍔迫り合いしながら弾幕を打つ。
向こうも適度に弾幕を撃って落としている。
このままではジリ貧だ。
そう思い、一旦距離を取る。
一呼吸。二呼吸。
「ザ・ワールド」
時を止めた。世界が灰色に変わる。
俺は大量の八卦路を早苗さんの周囲を囲むようにして、ドーム状に設置した。
本当は、使いたくないんだけれど…
「そして、時は動き出す」
世界が元の色に戻る。
「なっ…!これは…!?」
「チェックメイトです、早苗さん。」
「てめぇの罪を…数えろ!」
禁忌「ミステリアススパーク」
設置したすべての八卦路から最大出力の超極太レーザーが出る。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
恐らくこれで観念しただろう。